予報

明日、雨が降るらしいと聞いた。


そして僕は明日の朝、それを忘れるだろう。


第一、こんなに今日が晴れているのに、明日の天気についての記憶など


どこに結びつけておくのだろう。


駅を降りれば、小さな子どもは同じところを小さな自転車で走り回り、


女子高生たちは、これから行く卒業旅行の記憶をねつ造している。

白蛇

珍しく三日連続で雪が降る。
温暖化なんていうのが嘘のようだが、
嘘なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。


ダイナミックな大気の流れは統計的な分析手段で推し量れば
多少の乱数の乱れも収束するように考えるのは所詮、
人間という生き物のスケールが小さいからだ。
何億年というスケールの中の数百年がコンマ数%あったかいほうにぶれたり
寒いほうにぶれたり、すれば南極の大地も見えたり隠れたりするだろう。


だから、起こっている事を何かの傾向であるとか、性質であるとか
そういうことに還元する事はやめよう。


ただ、寒い。
ひたすらに寒い。
考えることをやめると確かに回転していたものがとまり
そこから発生する摩擦熱もとまってしまう。


風が交差点をゆうゆうと吹き抜ける。
そう分かるのは、雪がうねりながら地面を這っていくからだ。
蛇のように、右に左にうねりながら進む。


蛇はどれくらいかけてあの進み方を覚えるのだろう。
理屈は分かっても僕はそんな風に進めない。
僕が蛇に生まれ変わったら、果たして生きていけるのだろうか。


は虫類の寿命はそう長くないだろう。
その中で蛇の歩み方を覚えた頃合いに、僕は死ぬのか。
いや、できればせめて、その這い進むやり口だけでも、
こつを掴んで次の蛇に生まれ変わる人間たちに教えてやらねば。


信号がまた赤に戻ろうと点滅を始めている。
たとえ、ここでつまづいて死んで、蛇になっても
僕は人間のままだろうな。
襟を立てて駅へと走る。

1-2

部屋に入ってそのことを彼女に告げたところ
そんなのあったっけ、とのたまう。


挙げ句に今日は仕事見つかったか、とすでに時候の挨拶めいたことを言う。
相手のほうからは時候の挨拶程度の気楽さであるのに、
いまだにこれに対する適当な挨拶が見当たらない。


「やぁ、今日はなんとか目処がつきそうだよ」
とか言ってみたいが、それでは何回目処がついたところで決まるのだろう。


正直なところ、もはや直接お目にかかって第一印象のみで選んでしまったほうが早いのだろうが
直接お目にかからなくても分かる情報が多すぎて、
そこに行く前にできる準備をしようと思っているうちに、その会社ではダメなような気がしてしまう。
その会社がダメというわけでもないが、その会社である理由がどんどん不鮮明になっていく。


帰りにあの花のことを思い出してその場所に行ってみると、
咲いていることは咲いていたが、確かに彼女が部屋に行く通り道とは少しはずれた位置にある。
彼女の部屋の近くとだけ覚えていたのが仇になったか。

1-1 無題

影が差している。
俺から影が差しているのは分かっている。


アスファルトの隙間に雑草が
花ともつかない花を咲かせているのを見て足を止めたものの
それが彼らの成長を阻害しているのではないかと一瞬気にかけてしまい
どんな花で何色であったかも覚えられぬまま、立ち去った。


しかし、綺麗だった。